2013/07/03

Enchant MOONは地下アイドルに似ているね

いと爺さんの
enchantMOONは買ってはいけない
を読んで面白かったです。

enchantMOONの本物を手にしたことはないのですが、ウェブサイトとか、動画のなかで動いているのを観て、カジェットマニアでもない私としてはユーザーの視点が欠けた製品だな。と感じてます。
しかしその製品が熱狂的な期待を生んでいる状況も把握してます。そのうえいと爺のエントリを読んだりして、私は自分のむかーしのことをぼんやり思い出しました。

むかーしむかし、私が音楽制作会社を運営していたときのことです。
私はお抱えのアーティストによる楽曲をもって、既存のレーベルへの営業活動をしていました。あるひのこと。1990年代後半のコアなロック中毒者なら熱狂したであろう、とあるバンドのプロデューサーに会いにいきました。

ビスだらけの革ジャンに細パンツいでサングラス、くわえ煙草のプロデューサーを座らせて、まあ、楽曲を聴いてくださいまし。と、部屋にあったプレーヤーで再生しました。
1曲聴いてプロデューサーは言いました。

「俺たちはライブハウスに群れるガキを踊らすのが仕事だ。10人だろうが1000人だろうが踊れば勝ち。これは何人、踊らせた?」

いやー。いま思い出してみるとまるでONE PEACEに出てくる海軍大将の決め台詞みたいですね。でもそんとき思いました。メジャーでない人間が「向こう側」に行くために問われるのは「クオリティ」ではない。一人でもそれに熱狂する人間がいればアリ。いなければナシなんだな。と。

ぶっちゃけ、その時の楽曲は、アカの他人を踊らせた実績はありませんでした。ライブにくるのは知り合いばかり。それを見透かされていたんじゃないかと思います。

ところで音楽の世界には、「向こう側」に行けたアマチュアがメジャーに変化するための条件があります。その条件は以下のとおりです。

・コアファンのなかにスペシャルスキルを持つ人間がいること
・そのスキルは
-デザイン
-プレゼンテーション
-エンジニアリング
であること
・スキル保持者が能動的にアーティストのアクティビティに関わること
・アーティストはスキル保持者の仕事をすべて受け入れること

つまり、メジャー化とは、チームの仕事なのです。
メジャーになれるアーティストは、あんがいアーティスト自身、楽曲を作ること以外は何がどうなっても全く気にならないタチだったりします。逆にいろいろ口出しするような性格だと、周りが離れていくのでメジャーになりにくいです。
今だとインディーレーベルをあえて運営する人も珍しくないですが、だいたいメジャーで知名度をあげたあと「あえて」インディー化してロイヤリティを確保する感じでしょうか。

で、メジャー化していない、つまり十分なスキル保有者がチームにいない状態のアーティストが、何かの間違いで武道館公演を果たし、楽曲を披露してしまったらどうなるか。
もし武道館が満席なら、そのアーティストは徹底的にアラを探されます。最悪消えてしまうこともあるでしょう。10000人の収容人数が含む「真の音楽好き」の数には限りがあるのです。

で、 Enchant MOONですね。
この製品をアーティストだとすると、すでに踊っている人が何人もいます。だからこの製品はもう向こう側に行ったとしてよいでしょう。今の段階でいろいろ荒削りなのは全然問題じゃないです。
ただ、世の中にいる「ガジェット好き」は数が限られています。なのにいまその荒削りな状態で武道館収容可能人数以上の予約を受け付けてしまったら。「真のガジェット好き」以外の人間は、必ずアラ探しをするでしょう。まだその時期じゃない。というのが正しいところだとおもいます。

じゃあ、うっかりメジャーの舞台に立ってしまったスタートアップ直後のアーティスト(経営者)は馬鹿か。というと、それはちがいます。
最初に言ったように大事なことは「向こう側にいったかどうか」であり、1人でも、踊らせたか否かしかないです。
だとしたら、最初の段階で万人受けするかどうかは、最終的な評価にはならないはずです。
Enchant MOONについて思うのは、どういう結果になるにせよ、バブルとか言われるこの時期に製品をぶっ込んできたという事実、それに熱狂している人間がすでにいるという時点で「アリ」なのであって、その後メジャー化するためのチーム組はTBDであろうとも、いまの状況を「しっぱい」とは言わないんだなあ。と思いました。
最初アイドルだったけど路線を変えて成功する人。とかは普通にいますからね。

いと爺のファン心理のピュアなところがまるで地下アイドル評論のようでもあったので思わずいろいろ想像を巡らせてしまいましたw

数人のガキが踊ればいつかこれほどの熱狂になるという例