2013/01/02

2013年

賢さ:人間の敵の最大なものふたり、つまり恐怖と希望を、私は鎖につないで、人々の間から遠ざける。
場所をあけなさい!皆さんは救われたのだ。 
- ゲーテ作 「ファウスト」 悲劇の第二部 (高橋健二 訳)
ゲーテに言わせると希望は、未来を夢見ることで今の努力を怠らせ、人間を堕落させる1つの敵だということです。例えば

「子供たちに希望あふれる未来を」

という言葉は、非常にいいことを言っているように聞こえますが、実は何も言っていません。

またゲーテは魔女の口を借りてこうも言います。
魔女エリヒト:【略】国を力づくで手に入れ力づよく支配している者は、だれもそれを他人にゆだねはしません。自分の内心を支配することのできぬ者ほど、とかく隣人の意思を、自分の高慢な心のままに、支配したがるものです。
ファウストの世界では自己を律して思いのままに理想を突き詰める方法は、まっとうな人間よりもむしろ魔物の方がよく知っています。魔物は欲につけこみたぶらかし、人間の自由を阻むのがなりわいなので、その逆の方法についても精通している設定が必要だからでしょう。

ファウスト:知恵の最後の結論はこうだ、
生活でも自由でも、これに値するのは、
これを日々に獲得してやまぬものだけだ。
だから、ここでは、危険に取りまかれて、
子どもも、おとなも、老人も有為な年を過ごす。
わしもそういう人の群れを見て、
自由な土地に自由な民とともに立ちたい。
そのときは、瞬間に向かってこう言ってよいだろう、
とどまれ、おまえは実に美しい!と。

これは主人公のファウストの生涯最後の台詞の一部です。
希望なんか持たず、危険に取りまかれた毎日をただ自分に向き合ってすごすこと。
瞬間に生き、変わっていくこと。
完成したあともなお変わろうとする過程が破壊なら、なにかが終わるということはないんでしょう。
ファウストの相棒、悪魔メフィストフェレスが人間の馬鹿さ加減に呆れながら吐いたセリフをたまに思い出しながら、なんちゅうか恋でもしているみたいな気分の2013年です。
メフィスト:自信をもちゃあ、生きるすべもわかります(As soon as you trust yourself, you will know how to live.)