2011/01/25

フェイスブック 若き天才の野望 感想文

マーク・ザッカーバーグ主演、facebook血風録、読了しました。
いやー。ホントこれ21世紀の話なの?っちゅうほどドロ臭い前半はすごいですよ。なんかねー、セックス、ドラック、ロックンロールです。
世界制覇の夢を見て酒を酌み交わし、問題児扱いされる様子はまるで70年代のロックスター黄金時代の回想録を読んでいるよう。
「刺激のプールで溺れるような毎日さ。世界は俺たちの足下にあって、俺たちは100%自由だった」みたいな(そんなこと書いてないけど)。映画化したのがロックミュージッククリップ出身のデビット・フィンチャーだというのもうなずけます。きっとマークはカリスマ性のあるサイコ野郎として描かれているに違いありません(ちがったらすいません)。
そして中盤からばんばん出てくるITおよびメディア業界の世紀末覇者たちがまた濃い。「わしゃあGoogleの襟苦・首満っ賭じゃーい」「なんぼのもんやわしはMSの酢帝武・場瑠魔ーじゃあ!」「どけどえいっ!わしこそが流波ー怒・真ァ毒やァァァッ!」という感じで巨額の金を武器におぼこいマーク君をたらしこめようとするのですが、われらがマーク君はお金にちっとも興味がないのです。
その肩の透かし具合はアキラが泣いたら東京が吹っ飛ぶ。というくらいのコントラスト。金額が次第にヒートアップするにつれ、読者はみな10億ドルの価値があいまいになり、金銭感覚が狂うでしょう。
マーク君は文中、不思議な人、ちょっと変わったやつと表現されています。たとえば側近の人には
「人はたいてい安定期や節目があって、のんびり祝福したり達成感を味わったりすることがある。マークにはそれがない」
と映るほど、日々絶えず彼だけの理想に向かって猛烈に働くのです。立ち上げ当初は「たびたび気絶」していたというほど、寝ないし食べないし。
われらがマーク君が日々走り続ける理由。彼をやみくもに引き回す啓示は何なのか。
それは「世界をうんと透明にすること」です。主体的に自分の情報をネット上で共有させる行為が定着したあかつきには、人間が世界に対して正直になり、模範的な態度さえとることが可能になるという理想。要するに田舎でいうところの「町内これ全員知り合い」状態が人間を律し、世界が大規模によくなるという理想が1つ。もう1つは、ネットワークの普及によりいやおうなしに進む情報大公開時代という名の方向性を人間がコントロールするための仕組みが欲しい、という願い。
マーク君はGoogleがそこらじゅうをロボット(とかカメラ付きの車)に這い回らせて、世界を自動的に透明にするシステムを作っても人間は幸せにならないと信じているのです。そうではなくて、人間が主体的に情報を選び、公開していってこそ世はネットの恩恵に預かり、人々は本当の知恵を得るときが来るんだ!というように。
わたしにとって面白いのは、透明でない社会、ウラがある社会というのが「よくない結果」につながるとマーク君が考えていることです。確かに「隠す」ことは昔自己防衛の1手段でしたが、いまや出していって見せていって「裸ですが何か?」という状態にしておいたほうが弱みはなくなりますよね。所有してなきゃ奪われないし、隠してなきゃあばかれないと。
ただこうした考え方はネットの黎明期からあって、こういうことになるという予言も珍しくない。問題はなんでマーク君がそっちの方向に行ったのかというきっかけだと私は考えます。本書でちらっと触れられているんですが、どうやらマーク君はとある女の子にフラれたか、裏切られたかしたそうです。そのとき「クソあのアマー!」と、カっとなって1つサービスを作っている。それがfacebook誕生に少なからずつながっているというのは良い話だなあー。としみじみしました。わたしはマーク君の野望を矮小化しようとしているのではありません。やっぱりマークは正しい。
人間はどこまでいっても肉を通じて得た感情でしか動けないんですな。そしてたぶん物事も人が感情を通じてマジに信じた方向に動く。imagine there is no havenですよ。
「どうして音楽をやってるかって?モテたいからに決まってんだろ!」という感情まるだしロックスターとマーク・ザッカーバーグはたぶん等しく正しい。モテたいと表明しなくてもマーク君の体にはやたらマッチョな欲望がグラグラ煮えたぎってるんだろうなあ。マーク君の場合、感情表現はずぬけてヘタくそらしいですが。
でも、欲があるからといってそれに振り回されてやりたいほうだいやるのは凡人。マーク君、ちゃんと付き合いの長いステディと幸せに暮らしてるらしいです。ヒーローはまじめなのです。ヤクザロボットみたいな顔して決して筋トレを欠かさなかったミック・ジャガーみたいに。そして世界は感情で動いている。イエ~イ。
うがった読み方をしましたが、ほんと読む人の立場とか興味によりたくさんみどころのある内容です。株とか経済に興味がある人ならそのへんの細かい攻防に興奮するでしょうし、CEOという仕事がどんなもんか知りたい経営者志望の人にもたくさん得る情報がありそうですので是非どうぞ!
命短し恋せよ開発者。心からそう願います。そんで世界を変えようじゃありませんか。