2014/08/26

凶悪 - 物質に依存して膝をついたとたんイナゴが食いに来る。というエコシステム。

「凶悪 - ある死刑囚の告発」 は新潮社のノンフィクション小説です。

この、凶悪というお話は、土地ブローカーと元暴力団の死刑囚が地権者を殺害して保険金を取ったり権利を略取したりして、土地を転売する手口の詳細が書かれています。死刑囚は別件で数々の殺人を犯していて、死刑が確定しているのですが、土地がらみの犯罪の共犯者である通称「先生」に恨みを持っていて、その罪を暴露しようと獄中から記者に事の顛末の記事化を要請する。というお話です。
死刑囚がどうやって獄中から外の人間を記者を使って追い込むことができたか、記者がどうやってムラのある供述から事実を拾ったか。といった興味深いトピックがリアルに描かれています。異常な人間とプロの記者の冷静なやりとりからは日本でもまだジャーナリストがちゃんと仕事をしているんだなあ。という感慨も感じられますし、親から継いだ土地という権利に乗っかってだらだら暮らすことのとんでもないリスクをまざまざとみせつけられます。

本作で私が興味を惹かれたのは、殺した側の異常さよりもむしろ殺される側のコンディションです。
地権者という立場にあぐらをかいたのか、単に商売に不向きだったのかわかりませんが、みな酒、ギャンブル、借金に苛まれて生活がたちゆかなくなっています。
依存癖を持つ人間をコントロールする。というのはヤクザの常套手段ですが、最初から依存癖のある人間に照準をあてればあえて薬漬けにする手間も省けるというものでしょう。

で、私は依存癖が怖いです。あまりの怖さに勝手に「依存の臭い」を自分の中に決めていて、その臭いに近づかないよう、あるいは自分で発しないよう気をつけています。

私の考えた依存臭
・タバコとアルコールと乾き物の混ざった臭い
・悪臭のするトイレ
・下水の臭いなど、湿気が伴う悪臭

以下理由

・タバコとアルコールと乾き物の混ざった臭い
酔うために飲むセットメニューですね。特にアルコールの臭いが強く出る安い甲類焼酎とか残酷な商品は凶器認定してもいいんじゃないでしょうか。パチンコ店の臭いの成分にもこれらが絶対含まれてます。

・悪臭のするトイレ
これは子供の頃、覚せい剤所持の逮捕者が出たご家庭の家に遊びに行ったとき印象強かったのが理由です。普通に掃除する人がいないというか、家庭の大人が家族の健康に気を払わない。こういうことに頓着しない、という空間に漂うすさまじい無気力さが、今思えばもう人生を自分の意思でコントロールできていないという証拠のように思います。薬でトイレが掃除できなくなったというより、勝手な想像ですが、もともと酒とかに軽い依存傾向があって、トイレ掃除とかの習慣を簡単に手放せる素質があったんじゃないかと思っています。

・下水の臭いなど、湿気が伴う悪臭
これもトイレに似たことですが、自分自身とか家庭を清潔に、健康に保って大切にする。というちょっとした努力ができなくなるのは、何かに気力を奪われやすい証拠…。特に台所のゴミ受けにずっと生ごみをためていたり、風呂場の排水口に髪の毛を詰めたままにしていることが臭いでわかる空間や、それらを強烈な消臭剤で上書きしている空間は怖いな。不吉だな。と感じます。

その他、臭いじゃないけど要らないものを買ってしまう消費依存とかも依存癖の1つとしてありますね。100均の商品がやたら転がっている家とかはすごい不安になります。

でも何が怖いって、暴力団関係者は普段エンカウントする機会が少ないかもしれないけどですよ。こうした臭いの発生源は常にすぐそばにあるじゃないですか。安酒やタバコ、100均なんか田舎でも車で5分のところに必ずある。
人を依存に陥れるパチンコなんかは病院の数より多いんじゃないですか?
被害者を生きたまま穴に埋めたり、刻んで焼却炉で燃やしたり、暴力ふるって強い酒で潰し殺したりする犯罪者より、ずっとこういう依存源のほうが恐ろしい。何が凶悪ってそういう依存物質それ自体がずっと凶悪だわ。
私はこのドキュメンタリーを読んでそうした依存と臭いのことを思い出していました。

とにかく自分の意思を曖昧にするようなモノに溺れちゃいかんですよ。
物質に依存して身を持ち崩し、膝をついたとたんイナゴが食いに来る。というエコシステムがよくわかる教育的コンテンツ。それが「凶悪」という作品である。と言っていよいでしょう。中学生の課題図書にしてもいいと思いますよ。

ところでついでに映画も観ました。
こっちはエンターテイメント作品として取っ付き易くするためか、小説の醍醐味だったやりとりの詳細が省かれていて食い足りない感じでした。
あと、死刑囚役のピエール瀧がいい感じで鬼のような表情を見せるんですけど「ああ、ピエール、鬼みたい」と感じるたび、電気グルーヴの「カフェ・ド・鬼」を想起してしまい「ああ、ピエール、(カフェ・ド)鬼みたい…」(人を襲って命を奪い〜生き血をすすってえびす顔〜♪)と、歌詞まで出る始末。
全然集中できませんでした。でも、いい役者だと思います。



オレは背骨の無い男〜
ブルセラ通いの潔癖症
女はシビレて感電死
ウンジャラハゲジャラ食べちょろげだんちょね〜
というアホみたいな歌詞が書けるピエール瀧があんなに凄い役者になると誰が想像したでしょうか。