夏は虫。ということで、古本屋で購入した横山光夫の原色日本蝶類図鑑を、時間があくとしらべものがなくても読んでおります。
蝶好きな人なら常識でしょうが、黒く大きなアゲハチョウはみな一様に「カラスアゲハ」というわけではないんですね。おながちょう、みやまからすあげは、など、数種類があります。
とくに「じゃこうあげは」という種類は尾がながく、羽の形が複雑で迫力があります。そんなじゃこうあげはの本書の解説が凄い。以下抜粋。
長い尾状突起を振りながら、そよかぜにのって緩慢に、樹間や路傍の花上を舞う姿は「山女郎」の名のごとく、絵のような、美しさである。
<中略>
蛹は「お菊虫」と呼ばれ、後ろ手に縛された姿にも似て「口紅」に似た赤い斑点さえもひとしお可憐である。
じゃこうあげは、別名、じょろうあげはの説明であります。
女郎とは、美しい女性全般を指しますが、ここではもっとこう、関わったが最後道を踏み外しそうな、圧倒的性の芳香を放つことばになっています。
蛹のくだりにある束縛された女の姿と合わせると、ほとんど谷崎潤一郎の世界です。
山から降りてきた1頭の蝶にひもづく情報量が、その蝶を見た人間の感性によってこれほどまで大きく増幅するものか。
ことばの個性とは、やはり、世界をみる心の個性そのものなのでしょう。
しかし心の個性って、いったいなんでしょうか。自分にとって何が大切かをよく知っているってことでしょうか。