これです。
イケダハヤトが高知に行く理由を聞いてきた
そしたら不思議なことに、25年くらい前のことを昨日のことのように思い出したのです。
クラスメイトでひどいビックマウスの子がいました。だれかがなにかのトピックについて話していると、すかさず顔を突っ込んできては「あーそのことならおれになんでもきいて」とか「すくなくともおまえらよっかよく知ってっから」みたいに常に上から目線で講釈をたれるのです。
エレキギターのことならなんでも知ってるし、家にもすごいのがあるぜ。とか、
ペットならうちに超高級なオウムがいるぜ。
とか、あまりに偉そうにどんな話題でも「勝ち」にくるので、クラスの連中からは「めんどくさいやつだな」と思われていました。
彼の言っていることが単なる「講釈」どまりであるとされていた理由は簡単です。言っていることが浅く、細部に突っ込むと答えられなくなったり、あとで確認すればわかってしまうようなウソが混じっていたりするからでした。それに学校の成績もどちらかというとよくないほうで、尊敬に値する知性派とは思われていない点も理由の1つでした。
ある日、いつもの彼の講釈に腹を立てた「ヤンキー」的な男の子が、とうとう
「お前ほんとは何にも知らないクセに、知ったようなこと言ってるだけじゃねえの??むかつくんだよ。ぶっとばしてやろうか」と、突然彼に迫ったのです。
すると何を思ったか突然ビックマウスの彼は、反射的に窓から飛び出しました。
二階なのにです。
幸い外が砂だったので、彼は何事もなく着地し、そのまま駆け去ったのですが、その着地点についた足跡は「ビックマウスが二階から飛び降りて付けたありえない深さの足跡」として見る男子を笑わせました。
一方のヤンキー君は、当然ですが、クラスメイトを脅して二階から飛び降りさせたとして、先生に大変しかられました。
それからというもの、ビックマウス君は男子にとっては「追いつめたら何をするかわからないのでそっとしておくべき」存在になりました。
また、一部の女子のなかでは「彼のご両親は早くに亡くなり、子供の頃から親戚中をたらい回しにさせられて大変苦労している。彼の言動はいままで必死に生きてきたがゆえの護身スキルなのではないだろうか」という噂がおこりました。本当かどうかは知りません。
いずれにしても、その後ビックマウスがなにをどう知ったかぶろうが、クラスの態度はおよそ二つに分かれました。1つは「彼の言うことを肯定し、許容することで自分自身の度量を示す」態度。もう1つは「スルーする」態度です。豪快に否定することで苦労しているかもしれない人間を傷つけたり、また、飛び降りたりされないようにするにはどちらかを選ぶしかなかったのです。
それから数年たって、私は大学に通うようになりすっかり彼のことも忘れていたころ。
誰に番号をきいたか知らないが、ある日ビックマウスがわたしに電話をかけてきました。
「お前東京にいるんだって?俺もじつはさ、東京で働いてるんだ。こっちきてからインディーズでバンド始めたんだけど、今じゃ仕事よりバンドのほうが本業みたいなもんでさ。東京の女ってすげえのな。俺のライブでキャーキャー言うだけじゃなくてもう失神寸前なんだぜ。呆れるよ。そうそう、インディーズのビジネスとかレコード会社のつながりってお前知らないと思うけど....」
といったぐあいに、東京の、音楽業界で自分がいかにいいポジションにいるのか。そして、バンドでのしあがっていくには何が必要か。といった(知ったか)をおよそ二時間にわたって上から目線で繰り広げたのでした。
そのときの私の態度は「肯定」です。「てめえでかい口たたいてんじゃねえよどうせフカシだろう」と心ではちょっと思っていたのですが、なんとなくそういうことを言ってはいけないような気がしたために、ちょっと長かったのでイライラしながらも、最後までききました。
と、そのようなことをイケダハヤトさんのくだんのネタで、なぜかまるっと思い出したのでした。
彼の話を受け取った人間に、否定するには罪悪感が伴うようなどっちつかずの偽善的肯定や、素直にきっぱりと否定する反抗心といった「青春っぽい葛藤」を巻き起こす。というのが、イケダさんの存在の真骨頂なのかもしれないなあ〜。と面白く感じたのでした。