2011/09/11

奪われたものを取り戻そうとしてさらに失う

コーエン兄弟大好きでーす(とはいえ90年から2000年の10年間の作品すべてしか見てないんですが)。
やっとノーカントリー (原題:No country for old men)みました。2007年の作品です。
アメリカと死という巨大かつあまりに抽象的な概念の現場をすごいデッサン力で細部にわたって描画した2時間でした。
私の映画史上最強にタガの外れた描画で光った狂人格者が、人殺しとして万能屠殺銃を武器に登場します。この役の演出が素晴らしかったです。

人と人とのあいだに「不都合」という変な状況が起こる理由は、いつかかならず死ぬと知っていながらも、今日は死なないんじゃねーの?明日もだいじょうぶじゃん?という漠然とした期待のなかで、損しないように、なくさないように、減らさないように目を光らせて生きているからです。

生きてるうち得た金は無くなっていくし、努力しなければ技術も失います。若さも、健康も、性欲も、美しさも、ぜんぶある一定の分けまえから減る。そのうえいつか死ぬ。

分けまえの減り具合に敏感すぎて、そのぶんを取り返そうとする人もいます。
人のぶんを奪おうとする人もいるし、減ったぶんよりもっと得ようとする人もいる。そういう気持ちの総称を欲といいます。
だとすると不都合に敏感な人ほど欲が強いと言えるかもしれません。


人は奪われたものを取り戻そうとしてさらに失う。結局は傷口から出る血を止めるしかないんだよ。


劇中、元警官が言う台詞です。
因果応報から脱却しなさいよ。という意味にちがいないですが、因果の因が奪うことなら、与えることがもたらす結果は簡単に世界を救うことができるはずです。
まずは、自分に起きた不都合にもっと鈍感になることからはじめよう。と、この映画を見て思いました。


最凶の刺客、シガー扮するハビエル・バルデム。保安官を殺害中。むかしトム・クルーズの彼女だったベネロペ・クルスと結婚しましたね。トムとはある意味、兄弟です。

ほんとはこんな顔。