2006/04/26

高級ブランドについて その2

危うし。しかし負けるわけにはいかぬのだ。腹をくくり振り返ると、身長174cmはあろうかという細身の女史が笑っている。御茶漬海苔・・・。差し障りない会話に発展する前に堅く両腕を組みながら、私は衣類の用途を伝え、身長が低く肩幅も狭い身体的な特徴をあげたうえで適当なものを選択してほしいことと、自身にファッションの知識が皆無であることを一気に伝えた。女史は質問に答える前に「お客様はお小さいけど細くていらっしゃるから、うちので合うのはけっこうありますよ」と所見を語りながら「しかしうちって入りにくいですよね。商品のほとんどが地下だし、暗いし。」と言って笑った。これは意外だ。高級店の店員とは服装からステイタス感の感じられない客に対しては例外なく冷たいものだと勝手に想像していたのだが、実にあっさりと、しかし背筋はしゃんと伸ばしたままの状態でこちらの発話を促進する。少なからずデザイナー、クリエーターという職業の方と会話した経験のある筆者は、この時点で女史の職業意識を推察した。しかしそれは憶測に過ぎない。1日の来店者数や顧客の年齢層など、目下の買い物に全然関係ない話などをしつつ、候補の商品の選択を進めた。

選択にあたり、女史に提供した情報はおおまかな予算、パーティの会場、自身の年齢、職業、当日は幼児を伴っていく予定、仕事の際の服装の傾向など。応えて女史は1)スパンコールなど装飾要素が無くても華やかさがあるもの 2)幼児の相手をする際、しゃがみ込んでも伸びがよく、しわにならない素材 3)洗濯しやすいもの 4)予算内 5)体格に合うもの 6)着回しが効く、という6つのポイントを満たす洋服をピンポイントで推薦した。

筆者は唸った。高額で。というのもあるが、先に感じた女史の職業意識が本物であったことに対してだ。デザイナーの場合、クライアントに絵心が無くても、適切な絵(機能)をクライアントが描いたものとして提供するのが仕事である。しかしその世界には貴賤があり、デザイナーと名乗っていても「いくら払わすか」「どう買わすか」だけを考える人もいる。だがクライアントの利益を真剣に考えたサービス、あるいはサポートの提供を貫徹することにしか、現実的に高い値付けは付いてこないのではないだろうか。筆者は女史の対応で、なぜ高級ブランドの製品は高いのかがわかったような気がしたのだ。

女史は試着時、サイズ調整の必要性を指摘しながら、裁断した端切れでチョーカーを作成するので当日はそれにアクセサリーをつけること、靴はシンプルなヒールにすることなどを指南した。また会場で気が散らないよう、下着が完全に見えなくなるような細工を部分的に加えることを提案した。あまりにも親身になってくれるので、母さん呼ばわりしたくなるほどだ。
立場が人を作るのか、人が立場を作るのか知らないが、実直に仕事をする彼女のことを見習いたいと思った。

かくして帰宅後主人にこの経験をぜひ伝えようと思ってさわりだけ話したら、そんな高い服買いやがって驕ったな。と叱られ、友人には馬鹿野郎そんなのブランドじゃあたりまえだ。と一蹴されてしまった。